満員電車
週2で僕は通勤ラッシュの中電車に乗る。
社会を知らないため何時から何時が通勤ラッシュの時間帯なのかわからないが、動作1つで嫌な顔される程の満員っぷりを見るに僕が乗っている電車は通勤ラッシュの電車で間違いない。
幸い僕が乗車する駅での乗車人員は少なく比較的楽だ。
しかし目的地までの間に数箇所ラッシュポイントがあるため私は必ずあることにしなければならない。
それは、
席前の陣取り
である。
もちろん席が空いていれば即座るが(満身創痍の瀕死老人が来たら譲る)そうもいかない日が大半だ。
空いていたとしてもライバル(主におばさん)がバグ技を使い通常の1.5倍速で動き目の前でドヤ顔着席(ドヤ席)をしてくる。
その度に暴力による略奪を考える。
話がそれたがそういった際には必要となるのが席前の陣取りである。
これをすることによる「ワテそこに座るつもりでまんねん。文句ありまっか?」という意思を周りに伝えることができる。(たまにそれを無視する通称ワールドブレイカーもいる)
ただこの陣取りが非常に難しい。
様々な人種がいるため早めの段階で降りそうな人物を直感で当てる必要がある。
中でも一番危険なのが学生だ。
もし自分と同じ大学の人間の前に立てば言わずもがなおしまいだ。
駅に着く頃には一反木綿だ。
なので基本的に僕は「遠くに行く体力がなさそうなおじい(ばあ)さん」の前に立つようにしている。
ところが世の中は自分にとって不都合なモノである。
百戦錬磨の僕でさえも選択を間違え通勤ラッシュの波に飲み込まれてしまうのである。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……
終わりだ。
弄っていたスマホを即座にしまい上着のポケットに手を突っ込み1つの棒になった。
ここで解説しておくと空いた手を適当に遊ばせておくと誤って女性の臀部に触れてしまいめでたく痴漢男になる可能性がある。
僕はまだそのような悲惨な生き物になったことはないが安易に想像ができる。
世の中なにが起きるかわからないので何事もケアをする必要がある。
棒になった僕はラッシュの流れに揉まれてクルクル回転する。
両脚が捻れ体勢が悪い。
右脚を上げて……あれ?置く場所ねえや。じゃあ左脚をズラして……あれ?置く場所ねえや。
まずい。
満員なので下が見えないが恐らく右脚を上げた瞬間他の人の脚で僕の陣地が奪われた。
片足立ちを強要されたわけだがここは電車の中、フラついてしまいフラつく度に妙な視線を感じる。
パニックになった僕は複数のヘイトより単体のヘイトの方がマシだと考え誰かの脚を足の側面で踏みながら過ごすことにした。側面だろうがなんだろうが踏んでいる事実に変わりはしないのだが気休めである。
ごめんね。
気がつくと踏んでいたモノは消えスペースができたのでそこに住む。安心する。
後はもう挟まれるだけだ。気持ちに余裕が出来たので周りを少し見ると余裕そうにツムツムをしているおじさんがいた。
僕が苦しい思いしているというのになんて野郎だ。
不幸になれ……不幸になれ……
そう願うとおじさんのスマホがツムツムから通話の着信の画面に切り替わった。
「はい。もしもし……申し訳ありません……電車内でして……はい……はい……」
周りから思い切り見られまくってて気まずそうだ。願ってみるもんだな。
終